理事長挨拶
JPDA(公益社団法人日本パッケージデザイン協会)は、1960年5月に第一回 創立総会を開催してから64年に渡ってパッケージデザインの発展および普及に尽力してきました。協会を支えていただいた会員ならびに理事の皆様には心から感謝を申し上げます。
科学技術の飛躍によって私たちは便利で快適な生活を営めるようになりました。その背後では機能的パッケージの開発や物流が発展し、現代人は場所や時間に縛られない自由なライフスタイルを手にしています。しかし、暮らしに欠かせない商品パッケージは自然環境への影響も大きく、持続可能な現代社会を築きあげていく責任も担っています。
JPDAの創設期にまとめられた「JPDA REPORT」の座談会(1960年12月)を改めて読み返すと、編集者や経営者をゲストに招いてそもそもパッケージとはなんなのかを討議しています。パッケージデザインは中身と分けられず一体となっているものと、分けて棄てられるものがあり、自動車のボディーやTVキャビネットも外装と中身が分けられる点からパッケージデザインと考えられる、というような興味深い意見も記録されています。
日本には世界に誇れる自然があり、歴史を遡ると私たちの祖先は万物を尊びながら身近な自然の恵みを伝統包装に生かして来ました。しかし時代とともに独自の包装文化が失われつつあることは残念です。当時の暮らしを想像してみてください。人々はどのような気持ちで包み、受け取った包みを開く瞬間を過ごしていたのでしょう。
アートやデザインには論理では説明しきれない暗黙知と呼ばれる領域があります。五感の中でも触覚や嗅覚のように本人の脳や身体に、無意識のうちに影響を与える感覚の仕組みは、最先端の科学技術でも説明できない謎が多いそうです。誰もが子供時代には自然と戯れながら身体感覚を養っており、その経験が暗黙知の基礎となって肌感覚や直感が研ぎ澄まされるのでしょう。
ブランドとは有形と無形の価値が集まってできる、「意味の総体」です。言語化できる価値はコピーされやすいため、無意識にまで働きかけて記憶の中に体験価値を蓄積してゆくことはデザインや工芸の重要な役割だと言えます。言葉にならない感覚も含めて、いつのまにか「私はこれが好き」につながっていくのではないでしょうか。
産業としてのパッケージデザインは様々なステークホルダーの技術や社会の仕組みに支えられて成り立つものです。伝統パッケージから万物を大切にする心まで感じ取れるように、全ての物を分け隔てなく扱う日本の精神文化における包摂性から、未来の暮らしや人の心を豊かに変える気付きを得ることが益々重要になるのではないでしょうか。
心にとどくパッケージデザイン
予測困難な未来の社会課題に対しても柔軟に対応できる協会とするためには、いま一度パッケージデザインを大きな概念から見つめ、別のデザイン領域の事例もパッケージデザインに包摂するなどにより、幅広く最適解を見出す姿勢が求められているのではないでしょうか。
このためには、JPDAの基盤である16の委員会それぞれが能動的に活動できるように、4ユニット毎に委員会の連携を強化するとともに、パッケージデザインの未来を一緒に支えてくれる新たな仲間を募ることで、多様な知見を協会活動に生かしてゆきたいと考えています。日本の精神文化を背景に持つJPDAでなくてはできない、未来社会のための「心にとどくパッケージデザイン」を共に考え広げて行きましょう。
公益社団法人 日本パッケージデザイン協会
理事長 信藤 洋二
2024年6月17日